✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

「存在しない国」が、根っこにある私たちの物語を…

メモ。「台湾にルーツがあるからと言って、その誰もが台湾の歴史や自らの法的地位を説明できるわけではない。むしろ詳しく知らない方が自然である。日本にいると日本のニュースは意識せずとも入ってくる。しかし台湾に関しては、親や親戚から話を聞いたり、…

李良枝について

メモ。「そもそも言語の問題であれ、詩の問題であれ、男女の問題であれ、また〈在日韓国人〉、あるいは他のどんな立場の問題であれ、個人の性格やその個人の特有な志向性を無視して語れるものなど、果たしてあるのだろうか。 すべての現象は個人的である、と…

「皆が、健康でありますように」

メモ。 「『年年歳歳』を書いている間、私に起きたことは忘れないだろう。 小説を一つ書くたび 小説に可能な方法で一つの人生を私は生きてきて、 そのことに驚異しつつも、怖かった」(ファン・ジョンウン) たった、今、読了。まだ、何も言いたくない。うか…

「興味深い時代を生きますように」

メモ。「見えるのは私を見ているあなたを見る私」(フィオナ・タン) 2017年の暮れ、「平成最後の日」が正式に発表されると、私は自分自身が30歳になったときはそれほどでもなかったのに、突然、「30年」という月日の幅を意識するようになった。「30年」で区…

ニホン語と生きている、この歴史の中の「私」を刻み続ける

メモ。「研究者は自分のあり方に自負を持てば持つだけ、そこにひそむ権力性を見ないようになってしまう。そこがまさに問題なんであって、むしろその自分にとって見えないものは何なのか、見えないものをそれでも研究の対象にしているのはどういうことなのか…

それこそ、政治の問題…

メモ。「自己愛はあらゆる形態をとりえます。(…)露出趣味の、攻撃的な自己愛であることもありえます。こういった自己愛は結果として社会の中で《名を成す》実践を行うようになります。それから次に、普通の自己愛があって、それはまさにあなた自身を豊かに…

わかりやすさの罪と罰

メモ。「メディアの供給者と消費者のあいだでは、さまざまな変化の内部に存在する画一化と同一性の問題が認知されないままで放置されている。商売上の独占をめざそうと、政治的地位の専有をもくろもうと、彼らは〈わかりやすさ〉を旗印として差異を平らにな…

「純粋小説」と台湾人たち

基本的なおさらいとしてのメモ。「日本統治期台湾における文学の最大の問題とは、言語的アイデンティティであったと言えよう。母語としての台湾語、『祖国』中国の近代的白話文、『宗主国』日本の日本語をどのように選択し駆使するかということは、作家とし…

かつて、女性は「参政権」がなかった。国際女性デーに思うこと。

メモ。「一般に、参政権という政治的権利の拡大は民主主義の拡張を示すものとして理解されている。納税額にもとづく制限選挙から「普通」選挙へ、そして女性参政権行使へ。それは、民主主義の担い手が広がり、より公正な形に近づいてきた証というわけだ」(髙…

「独裁者」がいる国の子どもたちは…

メモ。「当時、ぼくたち子どもは政府を信用していませんでした。政府の言うことすべてに対し、信用を失っていたんです。子どもというのは、ごく小さい子どもであっても、自分には説明できないような何かを感づくものだと思います。少なくともぼくには説明で…

未来との「関係」を更新する

メモ。「未来が、肯定的なものであるか、否定的なものであるか、という議論はむかしからあった。また、肯定的な世界のイメージや、否定的な世界のイメージを、未来のかたちをとって表現した文学作品も多かった。しかしぼくは、そのいずれもとらなかった。は…

「わたしが間に合わなかった時代」に招き寄せられる

メモ。「それはわたしが間に合わなかった時代だが、その時代は絶えずわたしを招いている」(鍾文音) 昨年の今ごろ、楊翠著『少数者は語る』の書評を書く機会に恵まれた。 「家」をめぐる独自で多彩な世界 - 温聲提示 冒頭で引用した鍾文音の言葉はこの本で…

「自分と自分が大事にするものの居場所」のために

メモ。「刻一刻と光は姿を変え、数えようのない青の色みを見せながら空は遠ざかってゆく。そして太陽が去ってゆく先にまた別の色が生まれようとしている。ほんの一時目を離せば見逃してしまうほどに目覚ましく姿を変える、名指す言葉のない色たち。時として…

私には、彼を選ばないという選択肢さえなかった

メモ。「世界規模で踏み込んで来る人々のわたしたちを動揺させる圧力・圧迫にいかに対処すべきか(…)その圧力によってわたしたちは、自分たちの文化・言語に狂信的にしがみつくいっぽうで、他の文化・言語は退ける。時代の流行に沿ってわたしたちを鼻持ちなら…

空白のパスポート

メモ。「トランジット・エリアに到着した乗客は地理上はある国に属しているが、法律上はどこにも所属しない。地上にありながらどこからも認知されていない。彼のパスポートにはくっきりと出国のスタンプは押されているが、入国のスタンプはない。一体彼はど…

「不確かでちらちらとゆれる弱い光」を……

メモ。「最も暗い時代でさえ、人は何かしらの光明を期待する権利を持つこと、こうした光明は理論や概念からというよりはむしろ何人かの人々が、彼らの人生と仕事に置いて、ほとんどあらゆる環境のもとでともす不確かでちらちらとゆれる、多くは弱い光から生…

決意

メモ。「私の文学を偏愛する顧客には一点の喜びを、私の文学を憎悪する連中には一点の嘔吐を与えたい――私は、自分の狭量はよく承知している。その連中が私の文学によって嘔吐を催せば、私は愉快である」(魯迅)。 私は、’善い人’であろうとする傾向が強すぎ…

わたしたちの聲音

メモ。「私はもう私がわからなくなって来た。私はただ近づいてくる機械の鋭い先尖がじりじり私を狙っているのを感じるだけだ」(横光利一) よろこべと命じられてよろこぶなんてまっぴらだ。私たちの絶望に対する渾身の抵抗が自由を信じたいと願うあなたと共…

距離をとる

メモ。「私は十二歳で父を、十六歳で母を、十七歳で祖母を亡くし、それらの経験を通して目の前の物事を眺めるようになったのです。それが物事を客観的に見、ひたすら観察する目です。これは非常に重要なことです。だからこそ、物事を俯瞰し、客観視するアン…

「モデル・マイノリティ」なんて、いないってばほんともう何度言わせんの

メモ、メモ、メモ……ニケシュ・シュクラのこの本が翻訳・刊行されて以来、ことあるごとにこの本を捲ってはメモをしている。 「本書が生まれる発端となったのは、『ガーディアン』紙に掲載されたある記事に対する一つのコメントでした。はい、承知しています。…

愛おしい不純な奴ら

メモ。「複数の言語をまたぐことで雑多な偽物が生まれてくる。カルチュラル・スタディーズならば混淆性や多様性なんてきれいな言葉で語るのだろうが、そうした便利な言葉で捉えてしまえば、周囲に理解されず受け入れられない多くの、境界線上にいる人びとが…

彼女たちと〈私〉の絆

メモ。「アメリカ生まれの中国人たち,あなたたちの中の中国的部分を理解しようとする時、あなたたちは幼少期に特有なもの,貧困によるもの,狂気によるもの,自分の家族にだけ関わるもの,成長段階に合わせて母親が話してくれたものと,中国的なるものとを…

責任と快感

メモ。「創作は純粋な行為ではありません。歴史をひもといてみればあきらかです。イデオロギーが要求します。社会が要求します。(…)作家は、書きはじめる前からさまざまな規範(モラル)に捉えられています。規範は多岐にわたり、芸術的、イデオロギー的、…

私でいる責任

メモ。「私には考える時間がある。それこそ大きな、いや最大のぜいたくというものだ。私には存在する時間がある。だから私には巨大な責任がある。私に残された生が何年であろうと、時間を上手に使い、力のかぎりをつくして生きることだ。これは私を不安にさ…

「冷笑ではなく希望を 怒りではなく喜びを」

メモ。「冷笑は、何よりもまず自分をアピールするスタイルの一種だ。冷笑家は、自分が愚かではないことと、騙されにくいことを、何よりも誇りにしている。(…)冷笑家は、失望した理想主義者だったり、非現実的な評価基準の支持者だったりすることが多い。彼…

「人之初,性本善」

メモ。「……例え真逆のことが真実に見える時でも、私はその言葉を心から信じています。私はいつでも、自分が訪れた世界の全ての場所で出会った人々の中に善良さを見つけています。 信じるものを持ち、善良さを自分の中に繋ぎとめる勇気、お互いの中に繋ぎとめ…

まじめに練習する日々

メモ。 「自伝や回顧録なら、ひとつ自分の声だけで書くということもある。ただし、自伝や回想録に出てくる人がみんな、作者のしゃべってほしいことばかり話しているなら、読者に聞こえてくるのは作者のおしゃべりだけだ――際限も説得力もないひとり語りである…

「日本人」というカテゴリー

メモ。 「私には複数のアイデンティティなどありません。ただ一つのアイデンティティしかないのです。このアイデンティティはさまざまな要素から成り立っているのですが、ただ、その〈配分〉が人ごとにまったく異なるのです。 ところが、私という人間の成り…

選挙と家族

「河畔で出会った人びととの無駄話」や、「編み物」「子供の世話」や「食事の準備」をする女たちを横目に「釣り竿を握って、コルクの浮きが水面で揺れ動くのを監視することで時間を浪費したくなかった」ディディエ・エリボンは、「この種の暇つぶし」を嫌悪…

肉体よりさらに裸形の言葉

テレサ・ハッキョン・チャの名前を知ったのは、池内靖子さんと西成彦さんが編んだ『異郷の身体 テレサ・ハッキョン・チャをめぐって』に、まず強く惹かれたため。以来、『ディクテ』もまた、私の未だ読破できていない「愛読書」の一つとなった。「自らの生と…