✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

戸惑いながら、絶望に抗うというかたちの「希望」を保つ

メモ。「此岸と彼岸に亀裂がはいっているようにも見えるし、蛇のようにぐねぐねの、寒々しい途方もない道のりの先に、すでにこの世を去った人びと、これから生まれ来る人びととの出会いを幻視し、もうひとつのこの世が浮上する。そんなことを想ってみた」(山内明美)。

うつくしい表紙に息を呑む。背筋をすうーっと伸ばしたくなる、凛とした佇まいの装幀の写真は志賀理江子さん。奥付けに添えられた文章によると撮影地は北釜海岸だそうだ。「海に雪がふる日、波打ち際には蛇の道があらわれる/その先を歩いてゆくと、もうここにはいない、近しいあの人たちに会える」。『こども東北学』の山内明美さんによる最新作『痛みの〈東北〉論 記憶が歴史に変わるとき』は、「2011年3月11日ー12日」を「とば口」にして綴られた文章。

「あの日」以降、発表年順に束ねられたこの本の一篇一篇を、これから少しずつ読んでゆこう。