✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

肉体よりさらに裸形の言葉

テレサ・ハッキョン・チャの名前を知ったのは、池内靖子さんと西成彦さんが編んだ『異郷の身体 テレサ・ハッキョン・チャをめぐって』に、まず強く惹かれたため。以来、『ディクテ』もまた、私の未だ読破できていない「愛読書」の一つとなった。「自らの生と…

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メモ。「〈わたしたち〉とは誰だろう。この問いは、どのような声を聞いているのがわたしたちか、どのような声が含まれているのがわたしたちか、と言い換えられる。ドイツ語で〈声〉を意味する言葉〈Stimme(シュティメ)〉は、選挙の〈票〉のことでもある。し…

わたしたちが、愉快であるときには

ティモシー・モートン、テジュ・コール。開かれた都市。世界との対話。以下は、篠原雅武さんのことば。 「私たちが愉快でいることができているとき、私たちがさまざまに現れてしまっている状態を、統制しようとはしない。さまざまに現れ、さまざまに受けとめ…

線、線、線…

「歩くこと、織ること、観察すること、歌うこと、物語ること、描くこと、書くこと。これらに共通しているのは何か? それは、こうしたすべてが何らかのラインに沿って進行するということである」と始まる本。原題は、ラインズ。線、線、線……文字は、線。読め…

「私の言葉は私のつくった言葉ではない」

きのう、トリン・T・ミンハを抜粋していたら、鴻池朋子さんと矢野智司さんの対談「〈贈与〉と〈交換〉」を再読したくなった。 矢野智司さん曰く「言葉は〈私〉に先行する〈多くの誰か〉によって、途切れることなく使用され、継承されることで新たに形成され…

ただ一つのメッセージという幻想から逃れるためには

トリン・T・ミンハの本は、引用だらけだ。私は、本の中に織り込まれたありとあらゆる他者の言葉に対する著者の敬意を感じながら、あくまでも敬意にもとづいて選ばれた言葉たちが重なりあってミンハという作家の文章をつくりあげているさまをまのあたりにする…

日本語の包容力

アゴタ・クリストフは書く。「わたしは、自分が永久に、フランス語を母語とする作家が書くようにはフランス語を書くようにならないことを承知している。けれども、わたしは自分にできる最高をめざして書いていくつもりだ」。 わたしもまた、「自分にできる最…

私の人生の発音不可能な部分

ノーマ・フィールドが、『天皇の逝く国で』の日本語版がみすず書房から出ることになったとき、「パキスタン系英文学者サーラ・スレーリの著書で、たいへんな共感を抱いていた『肉のない日』を訳した」大島かおりさんに、翻訳をお願いしたかったと語っている…

今、思うこと。

メモ。「私たちの検討している問題の枠組みでは、どれほど強い人でも、他者の支援なしには、善きことも悲しきことも何も実行することはできないという洞察が重要になります。ここにあるのは平等性という観念であり、それが〈指導者〉という観念、指導者とは…

憎しみに、抗いたい

エムケは書く。「憎しみの対象は、恣意的に作り出される。憎むのに都合よく」。であるからこそ、「世間の基準から外れていても幸せな生き方と愛し方の物語を語ることもまた、排斥と憎しみに抗う戦術のひとつなのだ。不幸と蔑視のあらゆる物語とは別の次元で…

ブログ「温聲筆記」始めます

読書日記、と呼べるほど立派なものではないけれど、昔から私は、本をぱらぱらっとめくって「いいなぁ!」と思った文章や言葉があると、読むだけでは飽き足らずノートに書きとめることで存分に噛みしめてきました。何年も前に記したメモの言葉と不意に「再会…