✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

完璧な装幀

メモ。「手紙を最初に読んだときには、遠い親戚や友人に何通も発送されたうちの一通、死亡通知に思えた。ところが、今読むと、明らかに彼女だけに宛てられたものだ、文のひとつひとつが彼女のために慎重に考え抜かれている。あまり書きすぎないように書き手がずいぶん苦労しているのがわかる、そしてまた同時に、許されると思える以上のことを書いてしまっていることも」(エミリー・ラスコヴィッチ『アイダホ』より)

傑作、としか言いようがない。要約、などできるはずもない。そういう長篇小説だった。読了してみて、しみじみと、なんと完璧な装幀だと思う。とりわけ、この帯を飾る、たった数行のこの文章ときたら。この小説について、ほとんど完璧にあらわしていて、この小説に打ちのめされたばかりの一人として、もはやほかに何も付け足したくなくなる。「記憶は消えても、悲しみは消えない」。それなのにこの「苛烈で美しい家族の物語」の読後感は、清らかであたたかい。まったく、なんという小説なのだろう。ため息が溢れてしまう。やっぱり小説は素晴らしいと芯から思わされる瞬間の幸福感をもっと味わっていたくて、最後の十行をもう数回読み直している。ドキドキしてくる。

今日の源:エミリー・ラスコヴィッチ著、小竹由美子訳『アイダホ』(白水エクスリブリス、2022)