✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

私たちは、もっと逆らえる

メモ。「僕たちは死者を悼まなければならないけど、死者に人生を乗っ取らせてはいけないんだよ。」(デボラ・レヴィ) 私は母のどんな姿を想像した? この小説は、主人公のソフィアがビーチに建てられたバーのコンクリートの床にノートパソコンを落とした場面…

麻痺したくない #入管法案再提出反対

メモ。 「『入管で働いてる人は、仕事だから。上のほうから、法律で決まってることだから。入管の人間だって、勝手に決めるわけにいかないから。命令だから。自分の仕事だけやってるから。そういうのは私怒ってない』。 日本という異国で、その国で決められ…

「存在を規定する記憶」がなくなれば、私やあなたも…

メモ。「いっそ、何も知らないまま旅を続けた方がいいのかもしれないと私の同行者がだしぬけに言った。記憶が消える前の過去は本当に我々に属していたのだろうか? 我々が知りえないそれ、過去もしくは転倒した未来と呼ばれるそれは、おそらく最初からただの…

私が正しいとは限らない、でも私はいつも間違っているとも言えない

メモ。「ちゃんと意見をもっているからといって、自分が正しいとは限らない」(スーザン・ソンタグ) こころは体につられやすい。体を健やかに保つことでしか、私は私のこころを守れない。私には私のこころを守る義務と権利がある。 今日の源:スーザン・ソンタ…

私にぴったりな挑戦

メモ。「自分だけの歴史にどっぷり浸かると、他者の歴史を見失う場合がある」(ナタリー・スコヴロネク) さあ、新年。勉強しよう。歴史を。家族史を軸とした歴史を素材に、物語を紡ぐための、もっとすばらしい方法を。 私は、「家族のサーガと社会学ドキュメ…

光の粒

メモ。「あなたが心の中に見ている世界は必ずしも美しいものでなくてもよいのです。それがあなた自身のものであること、あなた自身が見出したもの、あなた自身の角度で見られたものが必要なのです」(ジョーン・エイキン) 米国からクリスマスカードが届く。…

いま、一人でも多くのひとが、寒くありませんように。

メモ。「物心ついてからずっと、ただいなくなってしまいたいと思っていた。子どものときはずっと、いつかきっと逃げ出せるようにと、ただ大人になるのを待ちわびていた。ドイツの学校から、『集合舎宅』から、両親から、わたしの血肉となり、わたしを捕えて…

幸せでありたい。

ここ数日、いや数週間、数ヶ月、亀の速度で読み、書いてきた私にしては、かなりめまぐるしく、自分の本がまとまりつつある流れのなかで過ごしてきた。きょう、やっとひと息つく心地。それで、気になっていた一冊を、自分へのご褒美みたいな気分で機嫌良く購…

想像力を、信頼している

想像力の物語。『永遠年軽』を、そのように評してくださった金原ひとみさんの書評を切り取って、創作ノートに保管する。 「大きな事件は起こらない、何でもない話でもある。しかしこのテーマ、この重みを何でもなく書けるということに、むしろそこまでに重ね…

どうせ、私は……

メモ。「作家はまず第一に読者である。自著の出来映えを判断する基準を、私は読書から学んだ。それにそって評価すると、自分は嘆かわしいほどに不出来だと思う」(スーザン・ソンタグ)。 9月に『李良枝セレクション』が刊行されたあと、10月には「ぼくと母…

省略できない。平岡直子さんの『永遠年軽』評を読んで。

メモ。「作品において「普通」の前提は省略できるけれど、「普通じゃない」前提は省略できず、しかし、省略できないからといってそこに本題があるとは限らない。〈ミックスルーツ〉を特殊事情として括り出す読み方は、「普通/特別」の対比構造を温存すること…

作家の自由

メモ。「ぼくがやってみたいのは、人生とか芸術をとおして、自分自身を、できるかぎり自由に、できるかぎりそこなうことなく表現することなんだ」(ジョイス) エドワード・W・サイード『知識人とは何か』からの孫引き。私自身を、できるかぎりそこなうこと…

感情移入できないからと言って…

メモ。「たとえば、〈感情移入〉なるものに、バフチンはきわめて否定的であった。〈貧窮化〉とすら呼んでいる。ただ感情移入するだけでは、二人(以上)が出会った意味がない。〈他者〉として出会うのでなければ、両者のあいだに新たな意味が生まれる貴重な…

50年の「異常」と「正常」

メモ。 ◉1895 光緒21年 4月17日、清国の代表李鴻章と日本の代表伊藤博文が春帆楼で下関条約(馬関条約)を調印。清国は朝鮮の独立を承認し、遼東半島、台湾、澎湖諸島を日本に割譲 ◉1945 昭和20年 8月14日、日本政府、米、英などに「ポツ…

「国葬」への疑念、私がそれに反対する理由。

日本国籍は持っていないけれど、私は日本に根を下ろして暮らしている。この国の「住人」であるはずの私は、この国の国民のみが持つ権利を意識するとき、自分はこの国の人ではないと突きつけられるようで、一抹のさみしさを覚える。このさみしさは私がこの国…

「華」の根を辿る旅路は、たった一つきりでは絶対にない

メモ。「私は華僑4世ですが、アイデンティティは日本人です。私の様な日本人は他にも沢山いるんだ、この島国には色んな人が暮らしているんだ。そんな私は今、中華系日本人という名札が一番しっくりきています」(林隆太) 林隆太監督によるドキュメンタリー映…

時間が経てば経つほどに、言葉は言葉のままに……

メモ。「書き留められず、記録し、残すことのできない、無数の瞬間の一つとして、今というこの瞬間も過ぎ去ろうとしている。こうして多くの思念、多くの言葉が消え去って行く。 どこに行き、どう果ててしまうのだろう。 私におけるさっきまでの今も、一体ど…

李良枝と中上健次を読み続けていたら……

メモ。「わたしたちの日常世界は、明示的にルール化された規則だけではなく、空気のように不可視化された規範に拘束され、見えない境界線に分断されてもいる。文学の言葉は、この目に見えにくい規範や境界を可視化し、同時に、それらに転覆や逸脱、攪乱を及…

書棚のなかに埋もれた、わたしやあなたの居場所

メモ。「…わたしたちの生きる世界のヴィジョンは、もはや絶望で覆われてしまっている。だからといって、この世界で生きる以上は自分と周囲の人々が幸せであってほしい、というささやかな願いは、そうそう捨て去ることはできないはずだ。第二世界とは、そんな…

🦋輪舞する、魂たち。

メモ。「韓国でしょっちゅう襲われた既視感を、私は日本語を使い、日本の感性で育まれた者の(日本人であろうと、在日韓国人であろうと)脳に刷り込まれた〈彼方〉のせいだと思う。考えてみれば、大陸と陸つづきの韓国と違い、島国の日本は四囲を海に接してい…

私たちは少しずつ賢くなってゆける

メモ。「こんな質問があなたに憑いてまわる。〈知ることであなたはもっと愚かになった? それとも賢くなった?〉」(カルメン・マリア・マチャド) 今も、時々、ある。「賞味期限」がとっくに切れているはずの過去の怒りがどっと沸き起こって、過去の自分に…

この苛立たしさの正体は?

メモ。「一つ、大それた希望を言うなら、韓国文学を一つの有用な視点として、自分の生きている世界を俯瞰し、社会や歴史について考える助けにしてもらえたらありがたい(…)日本の歴史は、朝鮮半島の歴史と対照させて見るときに生々しい奥行きを持つ。この奥…

私のものではない私の言葉を十分に生ききるには……

メモ。「今日、自分のものではない言語圏に暮らす人々がどれほどたくさんいることか。あるいはもはや自国語を知らず、いまだ知らず、みずからが使用することを強いられたメジャー言語をよく知らない人々もいるのではないか。移民たちと、とりわけその子ども…

映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』が、私に思い出させてくれたこと。

〆切が目前に迫るアレやコレがどれもこれもはかどらず、今日はひとまずみんな放り出して、『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(フィリップ・ファラルド監督、2020)を観に行くことにしたのだった。 とても素敵な映画だった。小説、と称した何かを書くという…

🦋ナビの舞う空を、見あげる

メモ。「自分という存在が一つの名称で括られて行くことに、生理的といってもいい拒否感を覚えたにしても、人間は、集合名詞に括られる宿命から誰一人逃れきった者はいない」(李良枝「石の聲」より) 明日は李良枝が逝ってから30年目の5月22日🦋

ペーパーガイジンの憂鬱

メモ。「おれは兵隊にひっぱられていらい、身分の登録の類いにアレルギーになったのさ。いったい全体、考えてもみろ、紙きれ一枚でひとの身分を拘束できる、などということがあってよいものか。こいつはどう考えてもペテンだ。ところが世の中にはどんなに喚…

絶対の自由に安らってーー創作と批評について

メモ。「作家にとっての作品は十全に準備された放たれた矢である(…)敏感な読者は確実に存在し、しっかり矢を受け止めている。しかし、それだけでは作家は闇夜に小さな的を目がけて矢を放つようなものだ。作家が弓を引き絞るために力を矯めるのを見守り、的…

善きフィクションと人生

メモ。「小説を書く過程は、私より先に生きた彼らから、人生を学ぶ時間でもあった」(イ・グミ)。 また、一冊の私(たち)にとって大変重要な本が刊行された。 著者のイ・グミは、「複雑で多面的な存在」である人間を「日帝強占期という歴史的枠組みに閉じ…

「存在しない国」が、根っこにある私たちの物語を…

メモ。「台湾にルーツがあるからと言って、その誰もが台湾の歴史や自らの法的地位を説明できるわけではない。むしろ詳しく知らない方が自然である。日本にいると日本のニュースは意識せずとも入ってくる。しかし台湾に関しては、親や親戚から話を聞いたり、…

李良枝について

メモ。「そもそも言語の問題であれ、詩の問題であれ、男女の問題であれ、また〈在日韓国人〉、あるいは他のどんな立場の問題であれ、個人の性格やその個人の特有な志向性を無視して語れるものなど、果たしてあるのだろうか。 すべての現象は個人的である、と…