✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

それこそ、政治の問題…

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メモ。「自己愛はあらゆる形態をとりえます。(…)露出趣味の、攻撃的な自己愛であることもありえます。こういった自己愛は結果として社会の中で《名を成す》実践を行うようになります。それから次に、普通の自己愛があって、それはまさにあなた自身を豊かにするようにあなたを導きます。あなたを救い、あなたを守り、あなたを育むのです」(エレーヌ・シクスー)

 私たちは皆、自己愛からの恩恵を受けている、という前提でエレーヌ・シクスーは以上のように語ったのち、インタビュアーから「でもその二つのものの境界を見分けるのが難しいように思えるのですが」と訊かれて、こんなふうに断言する。

「もちろんです。それは仕方のないことです。それこそ政治の問題なのです。つまり、どの瞬間からあなたが自分に対して行う善が他者の悪になるのかを知るという……」。

 これこそ、政治の問題。私は、大丈夫? 常に疑っていよう。

 トリン・T・ミンハ『月が赤く満ちる時』を読み耽っていたのと同時期に、エレーヌ・シクスーのこの本も私は懸命に読んだのだった。当時はおろか今でも私は、トリン・T・ミンハやエレーヌ・シクスーが言っていることを自分が隅々まで理解できているとは思えない。それでも、かのじょたちの文章に触れていると、みるみると何かが溌剌と蘇ってくることだけは、あの頃もたった今も、確かに強く感じている。

今日の源:エレーヌ・シクスー著、松本伊瑳子、国領苑子、藤倉恵子訳『メデューサの笑い』(紀伊國屋書店、1993)