✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

愛おしい不純な奴ら

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メモ。「複数の言語をまたぐことで雑多な偽物が生まれてくる。カルチュラル・スタディーズならば混淆性や多様性なんてきれいな言葉で語るのだろうが、そうした便利な言葉で捉えてしまえば、周囲に理解されず受け入れられない多くの、境界線上にいる人びとが日々感じる痛みが視野から落ちてしまう。だいたい、純粋でいられたらこんなに楽なことはないのだ(…)この本で展開したのは、ぼくなりの偽アメリカ文学の試みである。そしてまた、ぼくをここまで育ててくれた、日米に散らばる多くの不純なやつらへの感謝の手紙でもある」(都甲幸治)

 都甲さんをとおして出会うアメリカ文学は、いつだって面白い。翻訳を’拒む’テキスト、ミルトン・ムラヤマについて語る都甲節に、昨日もすっかり魅了されてしまった。「日本人がアメリカ文学を研究する意味なんてどこにあるんだろうと思っていた」とはじまる都甲さんの第一評論集が、この『偽アメリカ文学の誕生』。純粋でいられたらこんなに楽なことはない。偽物の誕生を言祝ぐ都甲さんの言葉は、純粋な日本人ではないとか偽の台湾人とか言われるたびこっそり傷ついてきた私を心底励ましてくれる。くよくよしてる暇はない。世界に散らばる多くの不純なやつの一人としてどんどん書き続けなくちゃね。私たちは、常に一人ずつだけど決して独りぼっちなどではない。この期に及んで純粋さをありがたがるやつらに私たちこそ素敵なんだぞと知らしめよう。

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今日の源:都甲幸治著『偽アメリカ文学の誕生』(水声社、2009)