✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

線、線、線…

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「歩くこと、織ること、観察すること、歌うこと、物語ること、描くこと、書くこと。これらに共通しているのは何か? それは、こうしたすべてが何らかのラインに沿って進行するということである」と始まる本。原題は、ラインズ。線、線、線……文字は、線。読めなければ、ただの線。だから、紙の上に記された跡をたどるうちに、その跡をつけたひとが語ろうとする物語がこちらの心のなかにも見えてくるなんて、よく考えたらかなりふしぎなことだ。でも私たちは文字をいったん覚えたとたん、文字を何一つ知らなかった頃の世界の肌触りを忘れがちだ。でもどうして私は、それを何度でも思い出したくなるのだろう。

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今日も、引用の引用を。ティム・インゴルドから教わったオーピンガリク、ネツリク・イヌイットの長老のことば。「歌とは、人が偉大なる力によって心動かされたときに呼吸とともにつむぎだされる思考なのだ…私たちに必要な言葉がことば自体としてほとばしるとき、新しい歌が生まれる」。

今日の源:ティム・インゴルド著、工藤晋訳、管啓次郎解説『ラインズ 線の文化史』(左右社、2014)