アゴタ・クリストフは書く。「わたしは、自分が永久に、フランス語を母語とする作家が書くようにはフランス語を書くようにならないことを承知している。けれども、わたしは自分にできる最高をめざして書いていくつもりだ」。
わたしもまた、「自分にできる最高をめざして書いていた」つもりが、ある時期に、自分がしていたのは日本語を母語とする作家が書く日本語を、ただ、それらしくなぞっていただけだと気づき、このままでは全然ダメだと思った。たかだか小説のために、日本人のふりをしなければならないなんて。わたしは、日本語が本来的に備えている包容力を、あまりにも軽んじてたのだ。