✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

「詩は書かれなくても存在する」

メモ。「詩を書く人、言葉を駆使できる人の責務は、自分の思いは必ずその他大勢の人が思っていることでもあるという自覚を揺るがせにしないこと。つまり自分も大衆のなかの一人なのですから、大勢の人の思いを必然的に併せ持ってもいるのです。よく自分のために詩を書くという人がいますが、周りの人びとから切れて暮らしているわけではない以上、詩人は不可分にして他者の生を併せ持つ存在ともなります」(金詩鐘)

『世界 2023年7月号』(岩波書店)より

金時鐘さんの講演録「詩は書かれなくても存在する」を読んで、泣いた。「言葉を駆使できる人の責務は、自分の思いは必ずその他大勢の人が思っていることでもあるという自覚を揺るがせにしないこと」。その「責務」を果たしたいと思えなくなってきたら、その時は私も書くことなど、さっさとやめよう。自分に限っては何があっても「清潔」でいられるはずだなんて、そんなふうにはとても思えないのだ。今この瞬間だって。