✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

読書と創作、その無限の楽しみ

メモ。「書くことと読むことは、書き手にとってそこまで別々のものではありません。どちらにおいても、説明のつかない美しさや、作家の想像力にある複雑さや単純な優美さ、そしてその想像力が生み出す世界に敏感で、心の準備ができている必要があります。両方とも、想像力がわざと動きを止めたり、自らの門を閉ざしたり、その視野を曇らせたりする場所に注意しなければなりません。書くことと読むことはどちらも、危険と安全に関する書き手の考えや、意味と責任に関する穏やかな達成、あるいはそれらを求める汗だくの戦いに気づくことを意味します」(トニ・モリスン)

待望の!翻訳が! モリスンが特集された2019年10月号「ユリイカ」に載っていた有光道生さんの論考「ストレンジャーとの戯れ」の冒頭に引用されていたこの一文を初めて目にしてから、お守りのように大事に思ってきた。

かつて大社淑子さんが翻訳なさった『暗闇で戯れて 白さと文学的想像力』を、2023年の今、都甲幸治さんによる新たな翻訳で改めてまた読めるようになったのが嬉しい。

2019年10月号ユリイカ表紙。このモリスンの写真、やっぱりかっこいい!

『暗闇に戯れて 白さと文学的想像力』は、ハーバード大学で行われた講義から生まれた書物とのこと。モリスンは言う。「こうした問題について考えることは、作家として、そして読者としての自分にとって試練でした。おかげで書くことも読むこともさらに難しくなり、さらに無限にやりがいのあるものとなりました」。

このことばだけでも、豊かに書くことと真摯に読むことのむずしさと、そうであるからこその、そのやりがいをますます無限にしてくれる。200頁満たない薄い文庫本ではあるけれど、私のことだ。しばらく、ずっと、この本を傍に置き、ゆっくり読むことになるだろう。とても楽しみだ。

今日の源:トニ・モリスン著、都甲幸治訳『暗闇に戯れて 白さと文学的想像力』(岩波現代文庫、2023)