✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

想像力を、信頼している

想像力の物語。『永遠年軽』を、そのように評してくださった金原ひとみさんの書評を切り取って、創作ノートに保管する。

「大きな事件は起こらない、何でもない話でもある。しかしこのテーマ、この重みを何でもなく書けるということに、むしろそこまでに重ねられた壮絶なまでの逡巡や葛藤を感じ、戦慄した。本書は想像力の物語なのだ」。

私は結局、「人々に備わっている、自然な想像力」を信頼している。どんな人にも、自分や自分たち以外の存在を自分のために歪めることなく可能な限りまるごと受け入れるための想像力が、あらかじめ備わっているはずだと信じている。実生活で、それを疑いたくなる出来事に何度遭遇しても、結局は、信じている。ひょっとしたら子どもの頃からずっと私は、お気に入りの漫画や小説、音楽、映画ありとあらゆるフィクションを通して、知らず知らずのうちに、人間そのものを信頼するための感受性を養ってきたのかもしれない。そして、たぶん小説家とみなされるようになる以前からずっと私は、ほとんど無意識のうちに、自分もまた、誰かの心をほぐし、彼や彼女に備わる想像力を引き出すフィクションの作り手でありたいと希求していたのだ。今回、金原ひとみさんが、「大袈裟な設定や勧善懲悪などの分かりやすくさせる装置を排除し、包み込むような柔らかさで読者の心を丹念にほぐし、人々に備わっている、自然な想像力を引き出す」と『永遠年軽』を評してくださって、とても嬉しくなった。おかげで、私は、自分がなりたいと願っている小説家になりつつあると少し自信が持てた。この感覚をしっかり記憶しておけば、これからも「想像力の物語」を書く意志を保てそうだ。がんばろう。

2022/12/03朝日新聞金原ひとみさんによる『永遠年軽』評を読み、この一冊がさらに愛おしくなりました。