✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

未来、散歩、練習……そして、歴史の天使🪶

メモ。「過去の人たちが持ってこようとして努力した未来はまだ未来と感じられるし、私が思い描く未来も、未来にはまた、蘇らせたい未来となるのだろう。来てほしい未来を思い描き、手を触れるためには、どんな時間を反復すべきなのか。私はまずそれをどこかに書きとめておこうと思った」(パク・ソルメ)

 先週末、福岡に行ってきた。『ベンヤミン言語哲学』の著者でもある柿木伸之さんとお会いする機会を得た。東京に戻ってきてからは、〈翻訳としての言語、想起の歴史〉という副題が添えられた柿木さんの著書を夢中で読み耽っている。夢中になりすぎて、昨夜は、哲学科に在籍する老女になった夢を見た。私が老女なら柿木さんもそれなりのお年になってるのが”自然”なはずなのだが、そこは夢。もしかしたら夢の中の私の先生は、私が福岡でお会いした柿木さんよりもやや若くて、『ベンヤミン言語哲学』を上梓なさった頃ぐらいの年齢だった。いや、夢の中の私たちは私たちではなかったかもしれないけれど。

 とにかくそんな夢を見るほどなので就寝前に読む本としては興奮を誘いすぎると思って、今夜はちょっとやめておこう、明日も早起きしたいんだもの、今夜はもっとのんびりとした読書をしようと、パク・ソルメの『未来散歩練習』を読み出したのがいけなかった。面白すぎる。これではもっと眠れなくなる。だから今夜は「遠いところの友たちへ」(最初の15頁分)まで。すごいすごい。前作『もう死んでいる十二人の女たち』の「じゃあ、何を歌うんだ」がものすごく好きだったのだけれど、この長篇が私はもっと好きかもしれない。ああ、また、小説が好き!と叫びたくなる本と出会った予感だ。「どんな時間を反復すべきなのか」。「生ある者たちと死者たちとのあいだにあって、両者のあわいを住処とする」天使が囁く歴史は誰のもの?

これは、『ベンヤミン言語哲学』より。

……でも、早く寝なくちゃ。明日、またお楽しみ。今夜は一体どんな夢を見ることになるのやら。

今日の源:パク・ソルメ著、斎藤真理子訳『未来散歩練習』(白水社、2023)、柿木伸之著『ベンヤミン言語哲学 翻訳としての言語、想起からの歴史』(平凡社、2014)。