✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

私たちは少しずつ賢くなってゆける

メモ。「こんな質問があなたに憑いてまわる。〈知ることであなたはもっと愚かになった? それとも賢くなった?〉」(カルメン・マリア・マチャド)

今も、時々、ある。「賞味期限」がとっくに切れているはずの過去の怒りがどっと沸き起こって、過去の自分に変わって現在の自分が、酷い目に遭わされながらもグッと堪えるしかなかった自分を思い切り助けたり、抱きしめてやりたくなる、ということが。そういう時、よく思う。かつての私に降りかかった、それぞれの瞬間の、まざまざとした動揺や混乱、苛立ちを、とるに足らないものとして処理してきたのは、誰? 何? カルメン・マリア・マチャドの新刊『イン・ザ・ドリームハウス』をパラパラっと捲りながら、そんなことを思ってしまった。私たちは知らなかったことを知ることで、一旦は、忘れかけていた怒りや悲しみと向き合うのに苦しむこともある。でも、その苦しみとの、より適切な向き合い方を、新しい知識は必ず伝授してくれる。何かを「知る」ということは、私を決して愚かにしない。むしろ、必ず、少しずつ、賢くしてくれる。少なくとも、今のところ、私はずっとそうだった。この世界は、心を傷つける。それでも私は、心ある人々とこの心を分かち合いたい。それを願うことは多分、それほど非現実的ではない。大丈夫。私たちは少しずつ賢くなれる。マチャドのことばに触れると、そうだよね? と思いたくなる。

前作『彼女の体とその他の断片』もすごかったけど、そこからさらに先にいる新しいマチャドもすごそうだ。またしても小澤身和子さんの翻訳でマチャドの言葉が読めるのがとても嬉しい。

今日の源:カルメン・マリア・マチャド著、小澤身和子訳『イン・ザ・ドリーム』(etc.books、2022)