✍温聲筆記✍

温又柔が、こんな本を読んでいる、こんな文章に感銘を受けた、と記すためのブログ

映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』が、私に思い出させてくれたこと。

〆切が目前に迫るアレやコレがどれもこれもはかどらず、今日はひとまずみんな放り出して、『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(フィリップ・ファラルド監督、2020)を観に行くことにしたのだった。

とても素敵な映画だった。小説、と称した何かを書くという行為に没頭し、できれば他に何もしたくないと切に祈っていた23、4歳の頃の自分や、当時の自分を突き動かしていたまじりっけのないときめきが蘇る。あの頃からまるで変わらない。書いても、書いても、書き切った気がしない。私の中心を占領し、私のありとあらゆる行動を駆り立てているのは、「作家でありたい」という欲望なのだなと認めざるを得ない。未だに、作家になりたい、作家でありたいと望む自分自身の厄介さや滑稽みが愛おしくなるような、と同時に、自分が作家という存在に昔から抱いてきた敬意が清らかに募ってくるような、そういう気持ちにさせられる映画だった。映画を観ている間、歴代編集者さん(現在進行形の案件も含む)のことも、次々と浮かんだ。私の原稿が私以外の人々にとっても「価値」があると信じさせてくれる彼らに支えられて、どうにか書き続けてきた日々のことを思った。私が書いているのは、小説と称した何か、などではなく、小説に他ならない。いい加減、自信を持たなくては。わかっている。私が、私の書くものになかなか満足できないのは、作家でありたい、と切に望んでいた頃の自分をちっとも忘れていないからだ。まじりっけのないときめき。それが、今も自分を動かしているのだと思い出させてくれる、とても素敵な映画だった。気力回復。さあ、この調子で、アレが迫るコレやソレをどんどん仕上げるぞ!

今日の源:『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(フィリップ・ファラルド監督、2020)

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